司とつくしがホールにでると曲はすでに始まっていた。
型通りつくしをエスコートし、司は踊りだした。
しかし今だ頭は混乱し、何が起きているか分かっていなかった。
ただ、今は目の前には待ち望んだつくしがいて、その手を取っているのだ。
つくしが自分の腕の中にいるということに気づき、安心した司は徐々に冷静になってきた。
改めてつくしを見ると恥ずかしそうに顔を赤らめ、それでも嬉しそうに踊っていた。
その顔が見れただけで司は嬉しくなり笑顔になっていく自分を感じた。
「なぁ、なんでお前踊れるようになってんだ?」
「うん、それがね美作さんに教えてもらったの。」
嬉しそうに微笑むつくしをみて司の心はまた影がかかり始めたが、努めて冷静にきいてみた。
「なんであきらに?」
「うん。実はね美作さんにはダンスとマナーでしょ。西門さんにはお茶とお花と着付け。
で、類には英語とフランス語を習ってるの。最近イタリア語も始めたんだけどね。」
「あいつらに?なんでそんなこと?いつからだよ?」
「1年半位前にね3人が言ってくれたの。道明寺と付き合ってくなら必要だろって。
初めは断ったの、必要ないかもしれないし・・・
でも自分のためにもなるしって思って。
黙ってたのは道明寺が帰ってきたら驚かせようって言って・・・」
「・・・・・・」
「ゴメン。黙ってて。怒ったよね?」
「・・・・・」
「あの、道明寺?」
「なんで必要ないかもしれないって思ったんだ?」
「えっ!?それはその・・・
1年半前ってねあたしすごく不安になってて、つらかったの。連絡もあんまりなくて、あたしからはかけても繋がらないことが多いでしょ?
それに道明寺って結構色んな噂があったから・・・ 別に信じてるわけじゃなかったんだけど、やっぱりそれも不安で。
だからもう道明寺にあたしは必要ないのかもしれないって考えちゃって。」
目を潤ませ眉を寄せたまま笑顔を作ろうとするつくしに、自分がこんな顔をさせているのだと思い、司は胸が締め付けられた。
「・・・・・」
「この一年半皆にいろんなこと教えてもらって、気持ちも落ち着いたりしてたの。
自分が成長してる気がしたし、道明寺に少しでも近づけた気がしてた。
でもね、やっぱり不安になっちゃって・・・」
「少し前にね、かなり落ち込んだ時期があって、その時は皆が色んなところに連れ回してくれたの。
西門さんはせっかく習ったんだから実践しろってお茶会に出してくれたし、美作さんもダンスパーティーに連れてってくれて・・・
滋さんや桜子もしょっちゅう誘ってくれた。
類もね、類の両親に合わせてくれて、すごいためになる話を聞かして貰ったの。しかもずっとフランス語だよ?
まぁちょっと恥かいちゃったんだけどね、ははっ・・・・」
「・・・お前写真取られたろ。」
「あっうん・・・
それはホントに悪いと思ったんだけど・・・
道明寺が女の人と写ってる写真とかがかなり出てるでしょう?
そのことが辛くて不安だって言ったら、道明寺にも同じ気持ちにを味わわせてやれって・・・
だから皆と出かければそのうち記事にもなるからって言われて。
そのときはあたしも同意してたんだけど、やっぱりよくないことだったよね。
自分が嫌だったことを好きな人にするなんて。あたし性格悪くなっちゃったかも・・・」
つくしから聞いた『好きな人』という単語。
いつもなら顔が緩むのを止められない言葉だが、今日に限っては司の気持ちを切なくする言葉だった。
確かに自分は3人と写るつくしを見て胸が張り裂けそうな思い出した。しかし自分はずっとそんな思いをつくしにさせていたのだ。
「・・・・・」
「でも皆道明寺とのこと心配だって。
だから道明寺とちゃんと話したほうがいいっていってくれて・・」
「そうか・・・」
「あの、道明寺?」
「なんだ?」
「最近。連絡くれなかったでしょ?どうして?」
「それは・・・」
「・・・やっぱりあたしのこと、もうなんとも思ってないって・・・」
「違う!!」
つくしから聞かれたことに正直に答えられなかった。
つくしが不安に思っていたことも、司のために頑張ってくれてたことも、自分は知らなかった。
挙句に親友たちまで自分は疑っていた。
何も言えない司の様子を見て、つくしが誤解したのも無理は無かった。
しかし、つくしの言いかけた言葉は司の気持ちとは全く逆だった。
司はつくしへの後悔する気持ちと愛しさで一杯だった。
「俺は・・・ 悪かった。」
「どうしてあやまるの?道明寺は悪くないよ。あたしのほうこそごめんね。」
つくしが思っていたことを伝えたところで曲は終わった。
二人はぎこちない笑みを浮かべ、F3や滋たちのほうへ歩き出した。
「牧野。ちゃんと話せた?」
「類。うん、ありがとう。 あたしは言いたいことも、伝えなきゃいけないことも言えたと思う。」
つくしの今までよりもずっとすっきりした笑顔を見て、類は安心した。
「司!久しぶりだね~」
「滋、桜子。」
「お久しぶりです、道明寺さん」
「あぁ、お前らも悪かったな。つくしのこと。」
「!?司があやまった!すごい!」
「なんであやまるんですか?道明寺さんに謝られるようなことしてませんよ。私たちが勝手に、先輩のことが好きでやったことです。
それでも私たちに何か言うんであれば、謝罪より感謝じゃないですか?」
「・・・・・・あぁ、そうだな。サンキュ。」
「今度はお礼!?やばいよ~、あたし雪用の靴なんて持ってきてないよ!!」
「「・・・・・・・」」
「「司」」
「あきら、総二朗。」
「なんだよ、見かけなかったから来ないかと思ったぜ。」
「悪い、飛行機が遅れてな。今日の牧野のドレスあきらが選んだんだって?すげえ似合ってた、ありがとな。」
「!?おぉ。まさかそれで礼を言われるとは思わなかったな~。殴られる覚悟ならしてたんだけど。」
「ていうか別に司のためじゃねぇしな。俺らと踊るのに下手な格好させれないし。
結局あきらが自分の服に一番似合うドレス着せてるしな」
ニヤニヤと笑いながら横槍を入れてくる総二朗に、司は先ほどのダンス中の二人を思い出し青筋を立てながら言い放った。
「うるせぇ総二朗。もうお前は牧野に触るな。」
「何だよ俺だけ。それを言うなら類に言えよ」
総二朗の言葉に類のほうを向くと、類はつくしに寄り添いダンスフロアのほうを向いて話していた。
その様子を見た司は不安になる気持ちを抑え二人のほうに向かっていった。
「類」
呼びかけると不機嫌そうな表情で類は振り返った。
「牧野に見せる顔とずいぶん違うじゃねぇか?」
「当たり前でしょ?なんで司に愛想振りまかなきゃなんないの?」
「てめぇ・・・ いい。それより牧野と話がしたい。連れてくぞ。」
「はいはい。本と勝手だよね」
ため息をつき、つくしを司のほうへと促した。
「えっ!?ちょっと、なんで?」
「いいから、今日はこのままうちに来い。」
「あんたんち?いいけど・・・」
「いっとくけど他のやつらは来ないぞ。来ても入れねぇ。」
「な、なんで!?」
「お前と話がしたいからだ。俺はまだ言いたいことを何一つ言っちゃいねぇんだよ。」
「でも・・・」
司の言葉に戸惑い振り返ると、類は軽くうなずき「行ったほうがいいよ。」
と一言残してあきらたちのほうへ向かって行った。