相思相愛 3

 

パーティー当日。

美作邸に来ていた。ドレスやアクセサリーはここで身につけメイクもしてもらうことになっている。

「こないだも思ったけど、いちいち信じらんない値段のアクセサリー付けんのね」

目もくらむような宝石類をみて、つくしの心にはそれらを身に付ける喜びよりも不安のほうが大きくなっていった。

「いちいちってお前・・・   いくらなんでもパーティーの度に変えるやつなんていないぞ?

お前はたいした回数も出てないし、そんな中で同じのつけてくわけにいかないだろ?

たくさん行くようになれば同じの使いまわすようになるさ。」

「そういうことじゃなくてさ・・・

ていうかそんなの当たり前で方が、どこの世界に宝石使い捨てにする人がいんのよ。

そうじゃなくて、こんな高いのよく皆付けてられるなと思ったのよ。怖くないのかしら。」

「別に付けたまま運動するわけじゃないだろ?そうそう外れねえよ。」

「はぁ~・・・」

「じゃあリビングにいるから、着替えたらこいよ。」

「はいはい。」

あきらが出て行ったのをみてつくしは宝石を横目にドレスに目を向けた。

今夜着るドレスはあきらが選んだもの。

類は自分の選んだものを着せようとしたが、今夜はホストであるあきらに渋々譲ったのだ。

それにあきらが選んだドレスは類も納得できるくらいつくしに似合いそうなものだった。

トルソーに着せられた水色のドレスを前に、つくしはまたため息をついた。

 

 

「牧野、綺麗。」

「似合うな。馬子にも・・・  っいてぇ。」

「いいな、選んだかいがあった。」

準備が済むと3人のいるリビングへと向かった。

入って生きたつくしを見て三人は口々に感想を述べた。

つくしは類の言葉に真っ赤になりながら、総二朗にけりをいれ、あきらに感謝の言葉を述べた。

「じゃあそろそろ行きますか。」

あきらの言葉でドキリしたつくしは表情を少しだけ硬くしうなずいた。

会場に向かうため、4人で車に乗るとつくしの手を類がそっと握ってきた。

驚いて類のほうを見たつくしに、類は天使のような笑顔をむけ

「大丈夫。何にも心配要らないよ。牧野は堂々としてればいい。

会場にはおいしいものがあるから一緒に食べようね。」

といってきた。

類の言葉に体から緊張が抜けるのを感じ、つくしは笑顔で言い返していた。

「なによそれ?食べ物しか見えてないみたいじゃない。」

「だってそうでしょ?牧野いっつも食べ物目にすると目が輝いてるじゃん。」

「うっ・・それは・・・  しょうがないでしょ。あんたたちといると出てくるもの全部おいしいんだもん。」

「こないだ父さんと母さんが言ってたよ『こないだの子とは今度いつ会えるんだ?』って。

何でそんなこと聞いてきたのかと思ったら

『あんなにおいしそうにたくさん食べる子は始めて見た。また食べてるところが見たい』だってさ。」

「ほ、ほんとにそう言ってたの?」

「うん。」

「恥ずかしい・・・」

類の両親の言葉に驚愕しながらつくしは真っ赤になっていった。

それを聞いていた総二朗とあきらは腹を抱えて笑い出し同じ事を言い出した。

「初対面のひとに食いっぷりを褒められる20歳の女ってどうよ?信じらんね~」

「ホントだよな。オレが1年以上かけて教えたマナーは無駄だったのかよ。」

「そんなことないよ。牧野のマナーは完璧だった。出てくる料理をどんどん食べるし、軽く涙浮かべながらおいしいを連発するんだよ?

見てて気持ちいい食べっぷりだよね。食べ盛りの男の子かと思ったもん。

二人ともオレが女の子と食事に行きたいって言ったらびっくりしてたけど、牧野を見て安心してた。

「あ、あたしそんな勢いよくたべてた?」

「うん。でもマナーは守ってたから安心して?」

そいう問題じゃないと思いながらも、羞恥心で真っ赤になったつくしはそのまま何もいえなくなってしまった。

「でもよかったじゃん、類の親に気に入られて。司の母親はかなり怖いけど類んちの両親もちょっと変ってるもんな。」

「そうそう。司んちの母親は『脳みそ溶けますよ』だろ?類んちの父親は『布団はいるか?』だもんな」

「「類みたいに寝ると思ってたよな、絶対!!」」

結局、総二朗とあきらは会場に着くまでそのことを笑い続けていた。

つくしは恥ずかしさで一杯になり司の名前が出ても何も考えられなかった。

 

4人が会場に着くとパーティーの30分前になっていた。

主催会社のJrとその連れが現れ会場の注目を浴びていた。

「つくし!!」

「先輩!」

4人が進んでいくと滋と桜子が気づき近寄ってきた。

「つくし綺麗だね~、すっごく似合ってるよそのドレス。」

「そうですね、とっても上品そうに見えます。美作さんの見立てですね?」

「ありがとう、二人とも。そうなんだ、美作さんが用意してくれたの。」

会場に入り少しばかり緊張しかけたつくしも二人の姿にほっとした。

「牧野。おれ挨拶に回ってくるか、総二朗たちといてくれ。」

「うん。分かった。」

「それから今夜はこないだの記事のこと聞かれても全部否定しろよ?

俺らもそうする。もう嘘つく必要ないからな。」

「そうだね、わかった。ありがとう美作さん」

またしても感謝の言葉を述べるつくしに苦笑しながら、あきらは人ごみに消えていった。

 

しばらくドリンクを飲みながら滋たちと話していたつくしだった。

会場には人が増えていき類や総二朗は挨拶のためその場を離れていった。

残された女性3人はカクテルを手に会話を続けた。

 

「そういえばさ、今日司も来るんでしょ?」

「うん、そうなんだ」

「というか、道明寺さんは先輩と会うために帰ってきたんですよね?」

「わかんないけど、F3はそういってる。あたしもあいつとちゃんと話さなきゃと思って。」

「そっか。でもつくしをみたら司驚くだろうね~。自分が知らない間にすっかり綺麗になっちゃってるんだもん」

「そんなことないよ!皆に色々習ってることは黙ってたから、ダンスを踊れるようになってるの見て驚くかも知んないけど。」

「先輩かなり変りましたよ。自分じゃわかんないんですか?道明寺さんも可哀想に。」

「う、う~ん・・・」

「あ~、早く司に見せたいな。記事のことも知ってるんでしょ?怒ってるんだろうな~ すごい楽しみ!!」

「滋さん・・・」

「そういえばまだ説明してないんですよね?今日ちゃんと言うんですか?」

「うん、そのつもり。本とは連絡もないし、道明寺が何考えてるのかわかんなくて・・・

今日日本に帰ってくることも結局あたしに連絡は無かったし・・・

でも皆がちゃんと話さなきゃいけないって・・・  あたしもこのままじゃいけないと思うし。

黙ったままなんてあたしらしくないと思ったから、今日は記事のことも思ってることも全部言おうと思って。」

「そうですか。先輩らしいですね。」

滋と桜子はつくしの言葉にうれしそうに微笑み『頑張って』と無言で伝えていた。

実際、あの司がつくしのことを好きじゃなくなるなんてあるわけ無いと思っていたし、つくしへの愛を疑ったことも無かった。

しかし、つくしのそばでその様子を見ていた二人は正直司に対し怒りを感じていた。

優しく正直で、心の強いつくしを追い込んだのは司だ。

だからこそつくしのために出来ることはしてきた。

今回の計画に関しても、少しでもつくしの不安な気持ちを司に分からせようとしてのことだった。

「ようし、じゃあまずは食事だよね。何か取りに行こうよ」

「滋さんはすぐ食べ物ですね・・・  いいですけど。」

「ははっ、あたしもお腹減ってきた。なにたべようかな~」

「先輩もですか・・・  はぁ・・・」

話が落ち着けばすぐに食べ物へ走る二人に、あきれつつも桜子は後をついていった。

 

 

会場に向かう車の中で司は考えていた。

パーティーが終わるのは9時位だとして、そのあとつくしに電話するか、先に連絡だけでも入れておこうかと。

携帯に手を伸ばした司だったが、どうしても今かける気持ちになれず『仕事が入るかもしれないしな』と思い、

手をそのままタバコへと向けた。

自分のいい訳めいた考えに苦笑し

『日本に帰ってきて、牧野に合えるってのに、こんな気持ちになるなんてな。』とぼんやり思っていた。

 

「司様」

「あぁ」

「まもなく会場に到着いたします。本日はメープルの35Fの会場になっております。」

「分かった。この後の予定は?」

「本日はこの後予定はありません。このまま邸に戻ることになっております。」

「そうか。NYにはいつ戻る?しばらく日本にいるのか?」

「NYには明後日の12時に出発する予定です。その日は午前中日本支社の会議に出席していただきます。」

「わかった、明日の予定は?」

「明日は特に予定はございません」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・どういうことだ?」

「何がでしょうか?」

「何で急に1日も休みになったんだ?」

「・・・・・司様。ここ1週間どのように仕事をされていたかお分かりでしょうか?

司様に体調を崩されるわけにはいきません。ですから一旦休養をとっていただく日を設けました。

明日は邸でお体を休めてお過ごし下さい。」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・わかった。」

司は思いもよらない秘書の言葉に信じられない気持ちだった。

『明日は自由なのか』

この3年半休みらしい休みなど司には与えられなかった。

それが急に丸1日も自由な日が出来たのだ、それも日本で。

ふってわいたような吉報で司の心は決心がついた。

『今夜中に牧野に会って決着付けてやる』

司の目はここ数ヶ月に無いほど生き生きと輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

つくしはあきらと踊り始めると美作邸での練習を思い出していた。

ダンスの担当はあきらだったため、あきらと組むのが一番踊りやすかった。

初めに慣れているあきらと踊ったことで筑紫にも余裕が生まれてきた。

曲が終わると次は総二朗、次は類とパートナーを変えていった。

あきらの思惑通りパートナーを順番に変えていく3組の若い男女は会場の注目を浴びていた。

桜子と総二朗のペアはその優雅さで会場中からため息が出るほどだったし。

滋とあきらのペアは今日の主催者の御曹司と大河原の娘ということで別の注目を浴びていた。

 

しかし司だけは会場中でただ一人つくしだけを追っていた。

ダンスフロアに姿を現したあきらの横につくしの姿を見つけた司は驚きのあまり動けずにいた。

1年半ぶりに直接目で見るつくしはあまりにも綺麗になっていた。

薄い水色のドレスをまとい髪をゆるく結い上げた姿は、身につけた宝石の何倍も輝いてみえた。

しかしつくしに見とれていた司は、二人が踊りだしたとたん怒りで我を忘れそうだった。

つくしのドレスはあきらの服にとても似合うデザインと色だった。

たぶんあきらが選んだんだろう、そう思いながら楽しげに踊る二人をじっと目で追っていた。

『これがお前の選んだこたえなのか?牧野、おまえはあきらを・・・』

そう考え始めた司の前で信じられないことが起きた。

つくしがパートナーを変え再度踊り始めたのだ。

今度は総二朗が相手だった。

二人は踊りながら何かを話していたようで、総二朗がつくしの耳元でささやくと

つくしが頬を染めて恥ずかしげにうなずいていた。

その様子にまた司は締め付けられるような思いがした。

つくしにあんな顔をさせるのもそれを見るのも自分だけだと思っていたのに。

激しく動く感情についていけなくなった時、つくしの相手が類に変わった。

 

つくしが最後のパートナーチェンジを行っているとき後ろではあきらと総二朗が会話していた。

「おい感じたか?」

「あぁ、はっきりと怒りのオーラを感じた」

「こりゃはっきり説明しないと殺されるな。」

「説明しても殴られるくらいは覚悟しとかないと。」

「「まぁでも一番やばいのは類だな」」

 

 

つくしの手をとる類を見上げるとそこにはあの笑顔があった。

つくしは間近でその笑顔に見つめられ、自分が真っ赤になるのが分かった。

「牧野顔赤いよ。くくっ、熱でもあるの?」

「そんなこと無いけど・・・」

 

「ねぇ花沢類、ホントにあいつ来てるのかなぁ?全然見かけ無いんだけど。」

「うん遅刻してきたみたい。さっき会ったよ。」

「そうなんだ」

『あたしのとこにはきてくれないんだ・・・』

「牧野声に出てるから。そうじゃないよ、遅れてきたから挨拶とかに時間かかったみたい、牧野のこと探してたよ」

「ぎゃ!?ご、ごめん・・・」

「くくくっ、ほんとおもしろいね」

「あのねぇ・・・・ 」

「ねぇ牧野、頼みがあるんだけど?」

「?? なに?」

「聞いてくれる?」

「う~ん、あたしにできる事なら」

「できるよ、ていうか牧野にしか出来ないかも・・・

あのさ・・・・」

そういうと類はつくしの耳に何事かをささやいた。

類とつくしを見た司はどうしたらいいのか分からなくなっていた。

類に耳打ちされたつくしは真っ赤になり困ったような表情だったが、すぐに何か話しかけ笑顔になっていた。

目の前にいるつくしは類に対し信頼しきった目で見つめていた。

類も今まで人に向けたことは無いような笑顔をつくしに向けていた。

類とつくしのことは正直完全には理解できないでいたが、それでも類のことは信頼していた。

つくしが辛ければきっと類に頼るだろうというのも分かっていた。

それでもつくしは自分を選んでくれた、そう信じていた。

けれど目の前の二人を見るとその自信もかすんでくるのがわかった。

 

これ以上は見ていられないと思ったそのとき、曲が終了した。

司は手に持ったグラスを見つめつくしもとへ行こうか考えていた。

 

 

「司」

はっとして顔を上げると類がつくしの手を引き近づいて来ていた。

「司、さっきいってた俺の今夜のパートナーだよ。」

にこやかに話しかけてくる類に対し司は嫉妬と怒りで一杯になった。

殴りかかりそうになるのを必死に押さえ、類をにらみつけていると類は信じられない言葉を言った。

「俺今日はもう踊らないから、後残ってるのは司だけ。

牧野と踊るの司が最後になっちゃったけどいいよね?遅刻してきたんだし」

類の言葉が理解できず呆然としていると

「じゃあ一曲終わったら俺らんとこ来てね?」

そういい残し類はさっさと反対のほうへ歩いていった。

なおも呆然として類のほうを見ていた司に、つくしが心配になって話しかけた。

「ね、道明寺?大丈夫?」

つくしに話しかけられたことに気がつき、司はつくしのほうへ振り返った。

そこには1年半前よりもずっと綺麗になり、自分を心配そうに見上げているつくしがいた。

「おまえ・・・」

「?」

「おまえ・・・・・     なんだ、その格好?」

「・・・・・・っは!?」

「何でそんな格好してんだ?」

気が抜けたような司を心配して声をかけたのに返事は全く見当違いなものだった。

しかもつくしの格好を非難するようないいようである。

つくしの中の心配していた気持ちは一気に消え去り、ふつふつと怒りがわいてきた。

「そんな格好って、どういう意味よ。これは美作さんが用意してくれたドレスなのよ?

あんたにとやかく言われる覚えは無いわよ。」

パーティー会場ということもありマナーを習ったつくしはさすがに声を荒げることは無かったが、その肩は怒りに震えていた。

「格好のことを言ってるんじゃねぇ。何でここにいるのか聞いてんだ」

司のほうはといえば今だ類の言葉もこの状況も理解できずにいた。

「何でって、美作さんに来ないかって招待されたからよ。別にいいでしょそんなこと!」

 

 

「「「はぁ」」」

つくしが振り向くとそこにはF3の姿があった。

「司」

「あっ?あぁ、なんだあきらか。っていうかどういうことだ?何でこいつがここにいて、踊ってるんだ?」

「それについては後で説明するから、とりあえず踊ってきたら?」

「そうそう、牧野は俺らともう踊ったからな。あとはお前だけだ」

「踊りたくないなら俺がもう一回踊るけど?」

「「類!!」」

「ほら、さっさといけよ」

「頑張ってこいよ」

F3に促され分けも分からず司はとりあえずつくしとダンスにむかった。

 

 

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