相思相愛 5

 

つくしと司が邸に帰ると、玄関には使用人が待っていた。

「お帰りなさいませ」

声をかけられた司は近くにいた一人に

「部屋にお茶をもってこい」

とだけいい、つくしを連れて自室に向かった。

司のの部屋に着くと、つくしは手を振りほどき抗議の声をあげた。

「ちょっと、どういうつもりよあんた!人の手ぐいぐい引っ張って。」

「お前が逃げると思ったからな」

「何よそれ!?逃げないよ、別に逃げる理由も無いでしょうが!」

「お前に逃げる理由が無くても、そんなの信じらんねぇんだよ」

「どういう意味よ?」

司の様子がいつもと違うのを感じ取ったつくしは声を抑えて聞き返した。

ちょうどお茶を届けに使用人が着たので、二人はソファに座り飲み物を受け取った。

温かいお茶を飲み、落ち着いた気持ちになってくるとつくしは急に不安になった。

『何だろ、さっきのセリフ?さっきから何にも言わないし。大事な話なのかな?

まさか・・・   さっきの会場で道明寺は謝ってくれたけど、やっぱり・・・・』

「牧野」

「は、はいぃ!?」

「ぶっ!お前なんだよそれ。」

「仕方ないでしょ、あんたが急に話しかけるから悪いんじゃない!」

「何で俺のせいなんだよ。それより大事な話がある。」

『やっぱり・・・』

つくしの頭にはさっき浮かんだ内容が戻ってきて、涙がにじんできそうになった。

「言っとくが、別れ話じゃない。ていうかそんなことは有り得ないから。」

「あっ、そうなの?なんだ、あたしはてっきりそれかと思って。よかった」

「ていうか、お前俺から別れたいなんて言うと思ったのか?それはそれで許せねえな。

俺のこと信じてんじゃねぇのかよ?」

「いやそうだけど。なんか深刻そうな顔ずっとしてるし。車の中でも黙ったままだし」

「はぁ。それは何から話していいかわかんなくてずっと考えてたからだ。」

「何か言いたいことがあるなら全部話して?ちゃんと聞くから。」

「あぁ。」

 

「そうだな、まずお前に謝りたいと思う。悪かった。」

いきなりそういうとつくしに向かって司は頭を下げた。見ていたつくしのほうが慌て

「ちょっと、何で急にそうなるの。頭上げてよ。」

「いいから、とりあえず最後まで聞いてくれ。

おれは日本を出るとき4年で帰ってくるって、そんでお前を迎えに行くって言ったろ?

けど、だからって4年もお前をほっといていい話じゃない。

俺はそれをわかってなかったし、我慢してくれてるお前に甘えてた。

向こうで疲れてるときお前に電話して、寝ぼけた声が聞けるだけでも俺は頑張れた。

けどお前にとっちゃ時間に関係なく俺の都合で電話がかかってきて、そのくせお前からの電話は取れなくて。

そんなの俺の我儘だったと思う。

俺がお前の声を聞きたいときがあるように、お前にもそれはあるんだって、ちゃんと考えてなかった。」

「道明寺」

つくしは溢れそうな涙を必死にこらえ司の言葉を聞いていた。

「雑誌なんかの記事のこともそうだ。お前が気にしないって言ってくれたからって、俺は何にもしなくていいわけじゃなかった。

やろうと思えば出来たのに。

正直、今回あいつらとの写真見て裏切られた気持ちになった、信じられなかった。

でも俺は確かめる勇気もなくて。そのことでまたお前を悲しませたんだよな、悪かった。

自分がその立場になったらわかった。あんなもん例え信じてても見たらどんだけ辛くなるか。

それを俺は3年もお前に味わわせてたのかと思うと、自分のことを殴りたくなる。」

「道明寺。あたしのほうこそ、ゴメンね?あんな写真撮られるようなことするべきじゃなかった」

司の気持ちを聞いたつくしは、どれだけ自分が司を傷つけたかを知り悲しくて涙が止まらなかった。

海の向こうで一人戦っている恋人に、少しでも安心させてあげるべきだったと、心のそこから後悔していた。

「いいんだ。確かにはじめて記事を見たときはそう思ったけど。あれがあったからお前の気持ちに気づけたと思う。

感謝してるぐらいだ。

まぁ今回はあいつらのこと殴んねぇけど、次は無いぜ?」

「あったり前でしょ?」

大粒の涙をこぼしながらつくしは笑いかけた。

それをみた司はつくしのことをしっかりと抱き寄せた。

「俺にはお前が必要だ。俺が好きなのは、ずっと一緒にいたいと思うのはお前だけだ。」

「うん。あたしも。好きなのは道明寺だけだよ。」

「・・・・つくし、愛してる」

司は自分の思いを告げ、それを受け止めてくれたつくしを心のそこから愛してると思った。

その気持ちが溢れ、名を呼び触れることで少しでも自分の気持ちを伝えようとした。

初めて名前を呼ばれたつくしは驚きながらも、愛しい人の口からでる自分の名の響きに震えるような思いだった。

そしてつくしもまた自分の気持ちが伝わるようにとそれを口にした

「・・・あたしも。司、愛してる」

 

 

司はしっかりとつくしに回していた腕を緩め、その顔を上に向けさせた。

つくしの顔には司の好きな笑顔があり、これ以上無いくらいに輝いて見えた。

司もまた優しく微笑みを浮かべつくしへ静かに近づいていった。

二人は触れ合うようなキスを交わした後、次第に深くお互いを求め、探り合っていった。

つくしは徐々に苦しくなる呼吸の中で、これ以上ないくらいの幸せを感じていた。

締め付けられるほど苦しかった司への思いは全て愛しさに変わり、今は司を感じたいという気持ちで一杯だった。

わずかな呼吸をする度につくしから漏れる甘い吐息が司を刺激していた。

互いの咥内を探りあい、深すぎるキスを終えるときにはつくしはソファに押し倒されていた。

触れるようなキスを繰り返し司が顔を上げると、紅潮した顔で溶けてしまいそうになっているつくしがいた。

その表情に誘われ司はつくしを抱きしめたまま、頬に残る涙のあとを舐めていった。

最後にまぶたにキスを落としもう一度つくしを見つめると、つくしは司を見つめ返していた。

お互いがその瞬間に理解した。

今気持ちが一つになっていると。

相手の全てを欲しいと思っていると。

 

司はそっとつくしを抱き上げ、寝室に移動した。

ベッドにつくしを横たえキスを繰り返す。

つくしがその行為を受け入れてることに喜び、失ってしまっていたかもしれないことに恐怖を感じた。

自分の不甲斐なさでこんなにも大切な、愛しい存在を失っていたかもしれないのだ。

自分への気持ちを持ち続けてくれたつくしに感謝の気持ちが溢れてくるようだった。

「つくし・・・」

「ん・・・」

つくしの顔を覗き込み、尋ねるような表情で名前を呼ぶ司に、つくしは恥らいながらも頷き返事をした。

それだけで二人には十分だった。

二人とも十分すぎるほど待ったと思った。

つくしも、いま自分がどれほど司を愛しているか、欲しているか分かっていた。

 

司はつくしの名を呼びながら何度もキスを落としていった。

自分の気持ちが伝わるように。

そしてつくしの恐怖が少しでもなくなるようにと願いながら。

 

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