相思相愛 tsukushi

 

 

 

今日もあいつの記事を見かけた。

仕方ないよね、金持ちで独身ってだけでももてるだろうし。

司がNYにいってもう3年?もうちょっと経ったか・・・  

3年の間、メディアで聞くあいつは「若き優秀な経営者」とか「才能ある御曹司」とか呼ばれてる。

でも、経済誌に取り上げられる回数よりも多分恋愛報道のほうが多いはず。

それも仕方ないけどね。

ため息が出る自分を笑って、つくしは立ち上がった。

もうすぐ3限が始まる。

今日は美作さんとこのお稽古の日だったな。ダンスとマナーか。

ダンスは結構楽しいし、踊ってるとスッキリするから今日みたいな日にはいいかも。

つくしはそう考えると、少しだけ気分を持ち直して授業に向かった。

 

 

 

 

司がNYにいってから1年後、つくしは栄徳大に通っていた。

ムリヤリ通わされたのだが、せっかく大学いけるんだしとこれもポジティブに考えるようになった。

大学生になる頃には一応家族みんなが何らかの仕事をし始めたので、つくしの負担も多少は軽くなった。

(母親はパート、父親と弟はアルバイトのままだが・・・)

しかもつくし自身高校生の頃よりいい時給でバイトできるようになっていたので、

少ない時間で効率よく稼げるようになっていた。

 

大学に入り1年が過ぎる頃には多少つくしも時間的な余裕が持てるようになった。

しかし生活に余裕が出来ると、同時に今まで気づかなかったものにも目が行くようにもなった。

ただでさえ司とはTV電話や携帯で連絡を取るしかない中、

頻繁に繰り返される司の恋愛報道を正直耳にしたくは無かった。

 

そんなとき声をかけてきたのはF3だった。

「牧野」

「類?めずらしいね、午前中からなんて」

「うん、今日は話があってね」

「あたしに?」

「うん」

微笑を浮かべたまま話しかけられ、つくしはドキドキしながら話の続きを待った。

すると類の後ろから別の声が聞こえてきた。

「ていうか、類だけじゃなくて俺らも話があるんだよね~」

「美作さんと西門さんも?」

「そう。まぁ昼でも食べながら話そうぜ?」

そういうとF3はカフェのほうへ歩き出し、つくしも慌ててそれに従った。

 

「で?話って?」

持参したお弁当を食べ終え、つくしが気になっていたことを聞いた。

「うん。最近さ、牧野も結構時間に余裕が出来てきたでしょ?」

「うん、まあね」

「そこでだ、その時間を有効的に使わないかって話なんだよ」

「・・・どういう意味よ?」

「お前も司と付き合ってる以上、色々学ぶべきことがあるとおもわねぇ?」

「・・・・・」

話がいやな方向に向かい始めたと感じたつくしは、無言で3人の話に警戒態勢をとり始めた。

「今までは結構お前も忙しそうだから何も言わなかったけど、せっかく今時間があるならなぁ?」

「そうだよな?」

あきらと総二朗が顔を見合わせてニヤニヤしていると

「つまりさ、習い事をしないかってこと。」

とあっさり類の口から結論を聞かされた。

「おい類!」

「簡単に言ったらつまんないだろうが」

「うるさい。いいじゃん、ドッチニしろ言うんだから」

類のあっさりした言い方に拍子抜けしたつくしだったが、その意味を理解すると慌て始めた。

「ちょっと待ってよ」

「「「何?」」」

「うっ・・・ いや何って・・・  無理だよそんなの。時間に余裕ができたっていってもお金は余裕があるわけじゃないし。

付き合ってるって言ったって、あいつがNYいって2年たつんだよ?最近はあんまり連絡だってないし・・・」

あせって反論し始めたつくしは段々と声を小さくしていった。

最近考えていた不安がついこぼれてしまったからだ。

「牧野」

そんなつくしを見て類は笑顔をみせて話始めた。

「お金のことは大丈夫。習い事って言っても教えるのは俺たちだから。

プロに習ったらお金払わなきゃなんないけど、俺たちが知ってることを教えるだけだし。

「でも・・・」

「類もそういってるし、新しいことを学ぶのは司のこと抜きにしてもいい勉強だぜ?」

「それに司からあんまり連絡がないっていっても付き合ってることにかわりないだろ?

今はあいつ忙しい時期だって聞いたし。

確か滋のとことの提携話を縁談抜きで進めてるって話だぜ?」

からかうような口調で言ってくる総二朗や、司との事をことをさりげなくフォローしてくれるあきらの言葉に、

つくしも心を動かさせるような気がした。

『そうね、今みたいに時間があるから悩むのかも。せっかくだから色々勉強させてもらおうかな。』

「そうだね、何にもしないより自分のためにもなるもんね!

じゃあよろしくお願いします!」

「「「まかせといて」」」

つくしの決心した言葉に、三人とも笑顔で答えた。

 

このやりとりがあってからすぐにつくしの習い事は始まった。

類は基本的に語学担当。英語とフランス語からだった。

類は耳で覚えるのが大事だといって、英語のDVDをみたり、フランス語だけで会話したりと実践的に教えてくれた。

思ったよりも厳しい授業だったが、1年も経つころにはどちらもかなり話せるようになった。

 

あきらと桜子からはナマー全般。

話を聞いた桜子が「女性役の見本がいたほうがいいでしょう?」といってきたのだが。

二人から習うパーティーマナーやテーブルマナーはとても楽しいものだった。

ダンスの練習も美作邸で行った。

踊る二人を見て自分も踊ってみたいと思ったことがつくしを早く上達させた。

 

総二朗からはお茶にお花に着付けを習っていた。

茶室に入る普段とはまったく違う総二朗に始めは驚いていたが、

手順よりもまずは心が大事だという言葉と、茶室の静かさにつくしの心は安らぎを感じた。

 

司からの連絡は相変わらずあまりなく、一方で恋愛報道は飽きることなく流れていた。

けれどこの一年はF3や桜子、心配する滋や優紀のおかげで楽しく過ごせていた。

皆の気遣いをうれしく思っていたつくしは、司の記事を目にしても落ち込んだ様子を見せないようにしていた。

 

 

 

3人から習い始めて1年以上経ったある日。

今日は美作邸へとつくしはやってきた。

本来ならあきらと桜子がいるはずだったが、今日はなぜか類や総二朗がいた。

「どうしたの?」

「今日はちょっと話があってさ。皆集まったんだよ」

「何?何かあったの?」

「・・・・司のことなんだけど」

いつになく神妙で苦しげな顔つきで語る総二朗やあきらを目にし、つくしは不安な気持ちを抑えられなかった。

『道明寺のこと?何かあったってこと?それもあたしに直接いえないことが?』

青ざめるつくしを目にしたあきらは慌てていった。

「いや司の体に何かあったわけじゃないんだ、そうじゃなくて・・・」

「何?じゃあ何なの?」

取り乱した様子のつくしをみて類が静かに話し始めた。

「司のことっていうか、司と牧野のことなんだ」

「・・・・どういう意味?」

「牧野さぁ、最近ひどい顔するときがあるよ」

「それって・・・」

「司のことだよね?」

「・・・・・」

「1年位前も牧野辛そうにしてる時があって、我慢してるんだって思ってた。

でも今は我慢って言うより、壊れちゃいそうになるときがある。」

「・・・・・・・」

類の言葉聴いていたつくしは、視界がゆれていることに気づいた。

けれど自分が泣いているということを自覚できないでいた。

「牧野さ、最近司のこと言わなくなったし、感情をはっきりださなくなったよね?

司のために我慢してるのは分かるけど、司の好きな牧野はそうじゃないよね?

辛いなら辛いって言ったほうがいい。司にいえないなら俺たちに言えばいいだろ?

俺たちは友達だし、牧野のために出来ることは何でもするよ」

類の言葉につくしは初めて自分が我慢していたことを感じた。

「・・・・類・・  っつ、う・・・ ・・・・類、ゴメ・・ アリ・・ト・・」

「ゴメンもありがとうもいいよ。泣きたいなら好きなだけ泣けばいい」

「・・・う、っふ・・・  あた、あたし・・・ 我慢しなきゃって、本とは辛くって・・・

うぅ・・  不安・・で・・・  でも、泣いちゃダメ・・って・・思・・・って・・・。

泣き・・・ったいのに、うっ・・泣けな・・・のが辛・・・て。

道明寺・・の・・  ・・信じてる・・どやっぱり記事・・  ・・・・不安で。」

一旦感情が流れ始めると、それを抑えることがつくしには出来なかった。

嗚咽を漏らしながら泣き続けるつくしを類はそっと抱きしめ、安心させるよう頭をなで続けた。

 

 

つくしが泣き止み落ち着いてきたのを見ると、3人は話し始めた。

「でもな、牧野。正直腹立たないか?」

「っへ?」

「だってそうだろ?さんざん追い掛け回した挙句付き合ったとたん勝手にNY行って。

大して連絡もよこさず、おまけに他の女との噂ばっかりばら撒いて」

「あ、うん・・・  まぁ確かに・・・」

「そうだな、お前はもっと怒っていいはずだ」

「そうかな?」

「そうだよ、牧野は我慢しすぎ。司にも我慢させてやればいいんだよ。」

お茶をのみ、落ち着いてきたところに3人からこういわれた。

久しぶりに思い切り泣き、心につかえていたものを出したせいだろうか、

つくしも段々と腹が立ってきた。

「そうよね、なんであたしこんなに我慢してんだろ?

そりゃあいつは向こうで色々あって大変かもしれないけど、もう少し気にしてほしいわよ!」

つくしの怒りの発言を聞いたあきらと総二朗はニヤリと笑った。

「だろ?だからさ、牧野もやり返してやればいいんだよ」

「そうそう、司を少しは焦らしてさ」

「でも、そうやって?」

「簡単だよ、牧野も男と記事になればいい」

「!?」

類のセリフに驚いたつくしは思わず持っていたカップを落としそうになった。

なにせ相手はNY、海の向こうである。

有名人だからこそ、ゴシップ記事が日本にも届く。

しかし、一般人のつくしには新聞や記事に載ることは不可能というものだ。

「無理だよ!だってあたしは一般人だし!どーやったらそんなことになんのよ!?」

 

そこで3人は一瞬顔を見合わせると、つくしに向き直りこういった。

「「「俺たちとパーティーに出ればいい」」」

 

 

 

 

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