「つくしちゃ~ん。どうだ?司から連絡あったか?」
「・・・・西門さん。そのつくしちゃんての止めてよ。」
「なに言ってんだよ。いまだ勤労・・・」
「わーーーー!!!言わないでよそういうこと!」
「はいはい。で?連絡あった?」
「ない・・・ っていうかここんとこ電話もかかってこない・・・」
「本とかよ!?おっかしいな~」
「ねぇ、やっぱりいくら道明寺でも日本の雑誌までみてないんじゃない?」
「いや~、そんなことは・・・」
「きっとそうだよ。頑張ってパーティー行ったりしたのに。西門さんや美作さんにも迷惑かけちゃってゴメンね?」
「俺らは別にいいんだけどさ。でも司は絶対見てるはずだぜ?
こないだあきらが『司があの記事知るように仕組んどいたから』って言ってたし」
「はっ!?何それ何したの?」
「あきらんとこに取材に来た雑誌のやつが、今度NY支社で司の取材するって言ってたんだと。
F4のうち2人を同じ時期に掲載できれば、部数も伸びるんだとさ。
だからあきらが『じゃあその取材に行く人にこの記事のことさりげなく伝えてくれるよう頼んでくれませんか』
って俺らが乗った週刊誌の記事渡しておいたらしい。
だから絶対司も気づいてるはずだ。」
「そんなことしたの!?そこまでしなくても・・・
でも、それなら道明寺も知ってるよね。ならなんで連絡してこないんだろう・・・
記事のことも電話のこともやりすぎたのかな?
それともやっぱりもうあたしのことどうでもいいのかな・・・」
司からの電話に出ないようにしろといったのはF3だった。
時間に関係なく電話してくる司に、たまにはつくしの都合で電話してやれと言ったのだ。
F3の強引な手口に驚いたつくしだったが、自分の気持ちを知ってもらうために今回はあえてそうしてみた。
しかし司が記事を知っているならば何故連絡してこないんだろうと考え、
やはり自分の思ったとおりなのかと落ち込んでいった。
「おまえなぁ、そんなことあるわけ無いだろ?
大方記事の内容にビビッてお前に連絡できないんじゃねぇの?」
「そんなことあるわけ無いじゃん。あの道明寺だよ?
あいつが雑誌の記事信じて、それで連絡できないなんてあるわけない・・・」
「・・・・・」
つくしの言葉を聞いていた総二朗も内心は理由が分からなかった。
確かに司なら、あんな記事を信じるとも思えない。
だからこそあきらや類とともに雑誌に写れば、司が怒って連絡してくると思っていたのだ。
「まぁ、そうあせるなよ。もしかしたら直接会うために仕事片付けてんのかもしれないしな。」
「うん・・・ そうだね」
不安はぬぐいきれないままだったが、総二朗の言葉に励まされつくしは笑顔になろうと努めた。
記事を読んでからの司は不安と苛立ちで一杯だった。
しかし1週間もすると改めて自分がどれだけつくしを愛しているか思い出していた。
『そうだ、何があろうとオレには牧野が必要だ。たとえ誰かのものになっていても取り返せばいいだけだ。
けど、そのまえに牧野にあって話さなきゃなんねぇ。あいつの気持ちを・・・・・』
そう考えた司は、日本に帰る時間を作るため、寝る時間を削って働いた。
総二朗の考えはどちらも当たっていたのだ。
記事を信じたため、つくしを失う恐怖から連絡できない。その次はつくしに会うためがむしゃらに働く。
つくしはそんな司の思惑を当然知ることは出来なかった。
ふたりは不安を抱えたまま日々を過ごした。
記事のことを知って2週間。
司に日本に帰る機会が来た。
この3年半、仕事で日本を訪れるなど一度も無かったことだ。
司は日本に帰れる安堵とつくしへの不安で揺れていたが、どちらにせよ日本に行くのだからと覚悟を決めた。
司の日本行きは秘書のおかげだった。
最近の司の不安定さが何に由来するものが分かっていた秘書は、社長である楓に
「来週初め、招待されている美作商事のパーティー出席のため、日本への帰国を予定しております。」
それを聞いた楓は驚いた。司の秘書には何があっても司を4年間仕事で日本にいかさないよう言っておいたからだ。
秘書を見つめた楓はこういった
「それは必要なことなんですね?」
「はい。」
表面上は出席必要なパーティーかと聞いたつもりだ。しかし今の司とって必要かという意味をこめて聞いてみた。
司の様子を報告させるため秘書にしたが、元は楓のそばにいた男だった。
楓の真意を読み正直に答えた。
秘書の答えを聞いた楓は軽くため息をつくと、「分かりました」とだけいうと退室を促した。
一礼し秘書が扉を閉めたのを目の端に捕らえると、楓は苦笑した。
勝手に4年という約束を公言した息子。3年半の間確かに予想以上に頑張っていたことも知っている。
財閥の後継者として4年でものになるわけは無い。
しかし司は後継者候補として恥ずかしくないと考えられるようになった。
その司の原動力があの4年の約束なのだとしたら・・・
『目の前ににんじんぶら下げられて走ってる状態かしら。
最高のえさが手に入るのに、貧相なにんじんなんか追いかけて。
それでもそれが欲しいと言ったのはあの子なのだ。あの子にとってはそれを手に入れることが全て・・・』
司のつくしへの思いに苦笑しながら、楓は書類に目を向けた。
つくしはいつものように美作邸でダンスの練習をしていた。
今日は大学であった花沢類と総二朗も来ていた。
「牧野。」
「なに?美作さん」
「お前1年半でだいぶ上達したよな。」
「そう?ありがと。やってみると案外面白いよね。まぁ桜子や滋さんみたいに優雅に踊るのはまだ無理だけど。」
「いや十分だよ。こうして踊りながら余裕でしゃべれるようになってるしな。」
「まぁね。でも美作さんの教え方がいいから上達するんだよ。」
「おっ!?そんなことまで言えるようになってきたのか?パーティーマナーも完璧だな。」
「もう、本気で褒めてんのに。」
「ははっ。悪い悪い。そんでさダンスもマナーも上達した牧野に頼みがあるんだけど。」
「何よ?」
「来週初めにあるうちの会社のパーティー、一緒に行ってくんない?」
「えぇ~また~?もう前に行ったので懲りたんだけど。美作さんといると女の子の視線が痛いし。
大体、また写真に撮られたらどうすんの?」
「大丈夫だって。記者やカメラマンは入ってこないし。こないだだって見られただけで何にもされてないだろ?」
「えぇ~、そうだけど」
「なんだよ、せっかくダンス教えてんのに。先生としては上達の成果を見たいんだよ。それに披露してみたくないのかよ?」
軽やかにステップを踏みながら会話をしていたが、あきらが突然悲しそうな顔をし、つくしはため息をついて諦めた。
「わかったわよ、行くわよ。じっくり上達したか見てくださいね、先生。」
「おぉ!そう来なくちゃ!
あっ、言い忘れたけど司も来るから。」
「!?」
あきらの言葉につくしは一瞬頭を真っ白にし足を止めて固まってしまった。
「ダメもとで誘ったらさ、一昨日出席するって返事が来たんだ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
司の突然の帰国を知り、あせるつくしだったがあきらはうっとりするような笑顔で言ってきた。
「大丈夫、ゆっくり話すいい機会だよ。あいつも時間作ってくるだろうし。
最近連絡無いっていってただろ?2週間前って言ってたよな、ちょうどオレが罠を仕掛けた頃だ。
司も考えて帰ってくるんだと思う。
この一年半牧野は頑張ってたと思う。もちろん自分のためってのもあるだろうけど、司のこともちゃんと考えてたのは俺たちも知ってるから。
だからずっと思ってたこと言えよ。
こないだ言ってただろ?『あたしのことも気にしろ!』って。
そういってやればいいんだよ。な?」
あきらの穏やかな笑顔を目にしたつくしは言われた言葉をかみしめ、頬を涙が伝うのもかまわず聞いていた。
そしてあきらが話し終わると笑顔になってこういった。
「そうだね。この1年半であたし少しだけど自分に自信が持てた気がする。
道明寺との事不安だったけど、頑張れたのは皆のおかけだと思う。
あいつと会うのは怖いけど、あたしは今もあいつが好きだし、それをきちんと伝えたいと思う。
美作さん、ありがとう。」
「あぁ、頑張れよ。当日は総二朗も類もくるから、オレが離れるときはあいつらと一緒にいろよ?」
「うん、ホントに有難う」
「ははっ、類の気分が分かるな」
「? どんな気分?」
「『牧野の有難うは聞き飽きた』ってやつ」
「もう!!」
つくしとあきらのやりとりを黙って聞いていた類と総二朗はつくしの決心した様子を見て胸を撫で下ろした。
「さすが牧野だな。当日は優雅なダンスを披露してくれよ?あきらに類にオレをはべらせてパーティーに行くんだ。
こないだより視線を浴びるかもしれないけどな。」
「!? ちょっと!プレッシャーかけないでくれない西門さん。せっかく決心したのに不安になるじゃない。」
「大丈夫だよ。オレがずっとそばにいるから。なんならオレのパートナーとしてでようか?」
いつの間にかそばまで来ていた類がつくしの頬の涙を拭い、輝くような笑顔のままそういうと、つくしは真っ赤になって目を泳がせた。
「ありがとう、花沢類」
「くくっ、だからそれは聞き飽きたよ?あきらにまで言われちゃったね。」
あきらとのやりとりのおかげでつくしの中には道明寺との再会することへの覚悟が出来てきた。
逃げてばかりいたり、言いたいことを言わないのは自分らしくない。
どうなろうと、はっきり気持ちを伝えよう。
そう決心して、つくしはパーティーの日を待った。
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