Girl meets Boy

 

司は今日、久々に学校に来た。
 
昨日まで春休みだったため、大学は今日から始まる。
 
高校よりもだいぶ遅い時期からのスタートだが、もともと学校に行って授業を真面目に受けていたわけではないのでそんなことにも気付かなかった。
 
司の目的は一つ。
 
高等部に行ってつくしに会うこと。
 
休みの間、つくしのバイトが忙しく満足に会えなかったため、司は今日こそ自分の邸に連れて行ってゆっくり過ごすつもりだった。
 
授業もろくに受けず、高等部の終業のチャイムと共に校舎の下で待ち構える。
 
生徒がわらわらと出てくる。男子生徒は司に気付くと青ざめて飛びのき、女子生徒は目を輝かせ、なるべく近くを歩こうと頑張っていた。
 
そんななか司はすぐにツクシを発見した。
 
周りから聞こえる黄色い声を不審に思い、顔を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべた自分の彼氏が立っていた。
 
司を見たツクシは一瞬びくりとなると立ち止まり、ズリズリと後退していった。
 
一方、司は完全に獲物を発見した獣の目つきになり、じりじりとつくしとの距離を縮めていった。
 
「・・・ちょっと」
 
「なんだよ」
 
「何で近寄ってくんのよ」
 
「お前が逃げてくからだろうが。てかなんで逃げてんだてめぇ」
 
「そんな顔した大男が寄ってきたら誰でも逃げるわよ」
 
一定に距離のままにらみ合う二人だったが、一瞬の反応はやはり司のほうが早かった。
 
ツクシが猛スピードで近寄ってくる司に気付いたときには、司の顔はまじかにきていた。
 
そのあまりのすばやさに対応しきれず、頭を真っ白にさせていると、つくしの視界は180度変わっていた。
 
気がつけば肩に担がれ地面を見下ろしている自分。
 
ぎゃーぎゃーと騒ぐつくしを気にすることもなく、上機嫌で捕らえた獲物を持ち帰る獣の姿に、それを見ていたほかの生徒は唖然とするしかなかった。
 
司は邸に帰るとまずは一発つくしのけりを受け、そこから文句を散々言われる羽目になった。
 
「あんた、何でこんなことすんのよ!!」
 
「は!?お前が全然俺との時間を作ろうとしないからだろうが!」
 
「仕方ないでしょ、休みの時期はバイトし放題なんだから!」
 
ツクシが言い返すと、それまで青筋を浮かべていた司は、急に表情を変えた。
 
「お前・・・」
 
「な、なによ」
 
「はぁ~~・・・  あのなぁ、お前は俺と付き合ってんだよな?」
 
「な、な何をいきなり・・・」
 
「どうなんだよ」
 
「そうだけど・・・」
 
「じゃあなんで俺と会わないんだよ」
 
「だからバイトが・・・」
 
「だからなんでそうなんだよ!?朝から晩までバイトバイトって。おきてる間中働いてるわけじゃねぇだろうが。
バイトが終わった後でも、その前でも時間はあんじゃねえのかよ!」
 
「それはそうだけど・・・」
 
つくしの態度をみた司はさびしそうな表情を浮かべていた。
 
「お前やっぱり俺と付き合うの嫌なんじゃないのか?」
 
「!?」
 
「だから、時間も作んないし、会うのも拒否してたんじゃねぇのか?」
 
「そ、それは違う!!」
 
「・・・?」
 
司がそらした視線をつくしに戻すと、つくしは真っ赤になって何かいおうとしていた。
 
「・・・別にあたしだって、会いたくないわけじゃないけど・・・
 
急に付き合うとかってわかんないし・・・  それに・・」
 
「なんだよ?」
 
「あんたのそばにいたくない・・」
 
つくしの行った言葉に衝撃を受けた司は目の前が真っ暗になっていくのを感じた。
 
 
「お前・・・ やっぱ付き合えないって・・・」
 
「だから!そうじゃなくてさ・・・」
 
はっきりしないつくしの態度に司は怪訝そうな表情で言葉を促した。
 
「なんだよ?」
 
「うん・・・  あの・・・  つまりね・・・」
 
ますます顔を赤くしモゴモゴ言うつくしを、司は可愛いと思いつつも早く先を聞きたかった。
 
「その先をいえよ」
 
「あたし、あんたがそばにいると見てらんないの」
 
「は?なにを?」
 
「だから、あんたの顔とか、その・・・  とにかく全部を・・・  
 
どこ見ても格好良いなって思っちゃって、こいつと付き合ってるんだーとか考えちゃうと、もうどうして良いかわかんないっていうか・・・
 
てかあたし何言ってんだろ・・・」
 
そこまで言うとつくしは赤い顔のまま俯き、司からの反応を待った。
 
しかしいくら待っても司の声が聞こえてくることはなく、さすがに不審に思ったつくしは顔を上げた。
 
すると正面にいた司は、つくしと同じくらい顔を赤くしぽかんとしたまま微動だにしていなかった。
 
司の様子に逆に驚いたつくしは、司に近寄り話しかけた。
 
「あの、道明寺?大丈夫?」
 
「・・・」
 
「ねぇ、ちょっと。道明寺!」
 
大声で呼びかけゆさゆさと体を揺すると、司も我に返った。
 
「おぉ・・・ おい、もういいって!」
 
「あっ、気がついた?大丈夫あんた、ボーっとバカみたいな顔しちゃってるけど?」
 
「おぉ、平気だ」
 
バカ呼ばわりしても文句の一つも言わない司を、つくしは不審に思いながら様子を見た。
 
すると急に真面目な顔になった司は、つくしのほうを向き、その腕の中に筑紫を閉じ込めた。
 
「ちょっと、あんた!急になにを・・」
 
「好きだ」
 
「!?」
 
「お、お前も俺のことをそんなに好きだとは思わなかったぜ。
 
お前が緊張すんのもむりねぇ、俺様はありえないほどかっこいいからな。
 
けど俺が格好いいのは仕方ないから、諦めて慣れろ。
 
 
会わなきゃ慣れないんだしな。」
 
「なんなのよあんた・・・」
 
そこまでいうと司は少しだけ体を離し、つくしの顔を覗き込んだ。
 
 
 
「だから今日から毎日会うことにする。」
 
「!?  はぁ?無理に決まってんでしょうが!!」
 
「俺も無理だ」
 
「なにが?」
 
「お前に会わないのも、話さないのも、触んないのも。全部無理。
 
だいたい付き合ってんのに会わないなんておかしいだろうがよ。」
 
 
高らかにそういって満足げな司を見上げたつくしは、呆れ半分諦め半分で明日からの自分に安息の時間が無いことを、身をもって感じた。
 

 

 

 

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