「おい、つくし」
「ん~・・・・」
「大丈夫か?だいぶ酔ってるぞ、オマエ?」
「ん~・・・ だって、あの会長にすすめられたら断れないし・・・
「おいホントに大丈夫か? まぁ明日は休みだし、体調悪けりゃ家で寝てろよ?」
「ん~・・・」
司の言葉にあいまいな返事をし、つくしは車のゆれに誘われるまま眠りについた。
二人が結婚して半年。結婚当初は毎夜のようにパーティーへ参加していたが、最近では週に2回程度になっていた。
初めは緊張していたつくしだったが、数をこなすうちに司のパートナーとして堂々と振舞えるようになっていた。
今日のパーティーは道明寺と付き合いのある不動産会社の会長主催のものだった。
すでに会長とも会長夫人とも面識のあったつくしは、会長を見つけると司と共にすぐに挨拶にいった。
しかし、相手の会長と夫人に気に入られているつくしは、司がその場を離れた後も離してもらえず、長い時間会話とアルコールを断れないでいた。
パーティーが終わり邸に帰るころには司に支えられて歩く状態だった。
「ほら、しょうがねーな」
そういうと司はつくしを車から抱き上げようとした。
しかしつくしはそれに気づくと、残っていた理性で
『抱き上げられたまま邸に入るなんて恥ずかしい』と考え、必死に抵抗した。
「何嫌がってんだよ。今までだって何回もあるだろう?今更・・・」
「いいの、今日は平気!車で少し酔いもさめたら。」
司の言葉を遮り、つくしは自分で歩こうとした。
いささか覚束ない足取りで歩き始めたつくしを、司はため息と共に見つめていた。
やがて諦めたのか、そっとつくしを支えながら歩き出した。
「そこの階段気をつけろよ」
「大丈夫だって、この家に住んでもう半年経つし。」
「半年しかだろ?俺は何年住んでると思ってんだよ?」
「あんたと一緒にしないでよね。あたしの順応力をなめてんの?」
二人は言い合いながらエントランスまで進んでいた。
2、3段しかないそれを階段と呼べるだろうかと考えながら、つくしはそれを上っていった。
しかし自分の様子を心配そうに見ている司に気がついてはいたので、上りきったところで振り返って司を見た。
(ほらね?)
そう言おうとつくしは口を開きかけたが、振り返った勢いで身体のバランスを崩してしまった。
つくしの様子を見ていた司はとっさに腕を出しつくしを抱きとめたが、勢いのついたつくしごと二人はその場に倒れこんでしまった。
「・・・・・・てぇ~・・・」
「つ~・・・・・」
「おい、つくし大丈夫か?」
「うん、ゴメンね」
「たくだから俺が・・・」
「だからゴメンってば!!」
司に対する申し訳なさと恥ずかしさを隠すように、つくしは背を向け謝罪の言葉を口にした。
「・・・・・」
「悪かったわよ。けど抱きかかえられて邸にはいるなんて・・・」
「・・・・・」
「なによ?」
「・・・・・」
「?何でなにも言わな・・・」
司の無言に疑問を感じたつくしは振り返ったが、自分も言葉を最後まで言うことはできなかった。
「「あんた(おまえ)だれ?」」
司がつくしを抱え込む形で向き合っていたが、二人は無言のままお互いを凝視し動けなくなった。
しかし、しばらく無言だった二人は徐々に青ざめていった。
「「なんであたし(オレ)がここに?」」
青ざめたまま二人はお互いを指さし、同じ言葉を口にした。
「とりあえず部屋に入ろうぜ」
座り込んだ状態でしばらく経ってから司はそう口にした。しかし自分が言ったはずのセリフがいつもと違う声で言われていることに気づき驚きは増すばかりだった。
司のセリフに促され、つくしも立ち上がった。
邸に入ると玄関では使用人が待っていた。
しかしいつもと違う二人の様子を目にし、その場にいた全員があわて始めた。
それほど二人の顔色は悪く、よほどのことがあったと思わせるものだった。
「あの、司様つくし様。お二人ともお体の調子がすぐれないように思えますが、お医者様をお呼びしますか?」
使用人の一人が声をかけると、司はとっさに返事をしていた。
「いや大丈夫だ。二人とも少し酔っただけだから、横になれば直る。医者は必要があれば呼ぶ。・・・今日はもう休むから、だれも部屋にはくるな。」
司はそういうとつくしを連れて部屋に向かった。
しかしそれを聞いていた使用の不安は増すばかりだった。セリフの内容は普段司が口にしそうなものだったが、それを口にしたのがつくしだったからだ。
まして普段たいていのことには動揺しない司が青ざめたまま、一言も発せずにつくしに促されて部屋に向かったのだ。
しかしつくしも今は邸の主であり、その言葉に従わないわけにはいかなかった。
「とりあえず、確認するけどお前はつくしなんだな?」
「・・・・・・」
「おい、聞いてんのか?」
「・・っえ?あぁ、うん」
司はとりあえず現状を確認しようとつくしに問いかけたが、今だ青ざめたまま混乱してる様子のつくしは返事もまともに出来ない様子だった。
「ハァ・・・ いいか?お前はつくしなんだな?」
「うん、そう。あ、あんたは司なんだよね?」
「あぁ、そうだ。」
「でもさ、その・・・ あんたその格好・・・」
「それを言うならお前もだ。」
「・・・・・」
「つまり考えたくないが、俺たちは・・」
「まって!!言わないであんまり考えたくないし、信じらんない!!」
つくしも会話することで徐々に冷静さを取り戻しつつはあったが、それでもこの状況の決定打を打つ言葉は聴きたくなかった。
「聞きたくないとか言ってる場合じゃないだろ!?どうかんがえたって・・」
「そうだけど!!だってこんな・・・」
「うるせえな、認めろ!俺たちは中身が入れ替わってんだよ!!」
「・・・・・」
司の決定的なセリフを聞いて、つくしは次の言葉を出せなくなった。
しかしすぐに青ざめていた顔を赤くし司に向かってどなり始めた。
「な、なによ!!結局言ってんじゃない!」
「否定したってかわんねぇだろ!?とりあえず現状を認めろ。」
しばらく睨み合った二人だが、目の前にあるのが自分の顔だと思うとそれ以上続ける気も起きなかった。
つくしがため息をつきソファに座るのを見ると、司もその横に座った。
「なんで、こんなことになっちゃったんだろ?」
「さぁ?まぁエントランスで転んだときにこうなったのは確かだな」
「うっ、悪かったわよ。あたしが転んだせいってことでしょ」
「そんなこと言ってないだろ。大体転んだだけでこんなことになるなんて、誰も考えねぇよ」
「・・・確かにね。どうする?お医者さんでも呼ぶ?」
「それも意味ねぇな。こんな病気聞いたことねぇし。専門家に聞くっても、誰が専門なのかわかんねぇ。とりあえず身体に怪我とかは無いみたいだからまだいいだろ。
それより、今日は一旦休んで明日落ちついてから医者に連絡するならすればいいだろ」
「そう、そうだね」
「おぉ、とりあえず風呂でも入ってこいよ」
「うん。」
つくしはまだ混乱が続いていたが、司の冷静な口調を聞いて幾分落ち着き始めていた。
医者を呼ぶにしても二人が落ち着いてからという言葉にも素直に納得できたため、司の言うとおり身体に残ったアルコールと汗を流そうと、とりあえずバスルームに向かった。
つくしがバスルームに向かうと、司はキャビネットからウィスキーのビンを取り出した。
つくしほどではないにしろ、司もいまだ完全には落ち着きを取り戻せないでいた。アルコールを飲みたいからというよりは、冷静さを取り戻すためにグラスを口に持っていった。
「ぎゃあ~~~~~!!」
「ぶはっ!」
バスルームからつくしの絶叫が聞こえ、司は口に入れたものを噴出してしまった。
「どうした!?」
「ぎゃあ!はいってこないでよ!」
「入ってくるなって、お前が叫んだからだろうが!」
「なんでもないから!」
「なんでもないって・・・ ってかおまえ何隠してんだよ?」
「いや・・・ だって・・・」
つくしを心配して駆けつけた司は、つくしから言われた言葉にむっとしたが、顔を真っ赤にしもじもじとしてるつくしをみて眉を寄せた。
「おまえ何赤くなってんだ?ていうか俺の体でそういう動きをすんな!気持ち悪りぃ」
「なっ!気持ち悪いとは何よ!しょうがないでしょ、中身はあたしなんだから。あんただってさっきあたしの身体で足広げて座ったりしてたじゃない。みっともないからやめてよね!!」
「なっ!!てめぇ、みっともないだと?男のオレがうじうじしてるほうがみっともないだろうが。」
「今はあたしの身体でしょうが!!」
ふたりはゼエゼエと言い合っていたが司は先ほどのつくしの叫び声が気になりもう一度聞いてみた。
「なぁ?ホントにさっきは何で叫んでたんだよ?なんかあったのか?」
司の心配そうな声を聞いたつくしは自分の言ったセリフに多少後悔しながら返事をした。
「ホントになんでもないから。なんていうか・・・ ちょっとびっくりしただけ」
つくしはそういうと真っ赤になりながら下を向いてしまった。
その様子を見ていた司はつくしが怪我をしたとかでないとわかり、安心した。
しかし赤い顔で下を向いたつくし、つまり自分の身体を見ていたらまたイライラとした気持ちになってきた。
「なぁ、何にびっくりしたんだよ?」
普段なら真っ赤になったつくしを抱き寄せてやさしく聞くところだが、いかんせん今はつくしのほうがかなり大きい。しかも顔も身体も自分である。
俯いてるつくしの下に行き、見上げればすぐに顔が見えた。
一方つくしも普段と違う対応をされ、あげく見上げてくるのは怒ったような自分の顔である。
『あたし普段こんな顔で怒ってんのかしら?』とまったく関係ないことを考えつつ、複雑な気持ちのまま返事をし始めた。
「うんだからさ・・・ お風呂に入ろうと思って・・・」
「・・・だから?」
「だから・・・ 服を脱いだんだけど・・・」
「・・・けど?」
「・・・だから、その・・ からだが・・・」
途中まで言うととたんに小声になったつくしに司はイライラしながら聞いていた。
「だからなんだよ!?」
司が声を荒げて聞いてきたことに対し、つくしもカチンときて怒鳴り返していた。
「だから!!全部服を脱いだらいつもと違う身体だったから驚いただけよ!!わるかったわね!!」
つくしはそういうと真っ赤になりながら司を睨みつけた。
司はもまた自分の顔で睨んでくるつくしを見て『俺こんな顔でいつも怒ってるのか?かなり怖い思いしてんじゃないのか?』などと関係ないことを考えつつ、つくしに言われたセリフを理解し始めていた。
『つまり、服を脱いだら俺の身体だってことを目の当たりにして、それで驚いて声を上げたのか?けど・・・』
「なぁ、けどなんで驚くんだ?何べんも見てるだろうが?」
「こっ、こん、こんな明るいところではっきり見た覚えないわよ!」
なおも赤い顔のまま反論してくるつくしに半ばあきれた気持ちで見つめた。
しかしそんなつくしを見ているうちにある考えが浮かんだ。
そこでニヤニヤしそうになるのを抑えつくしに声をかけた。
「なんだよ。じゃあどうすんだ?風呂はいんないのか?」
「うっ、出来たら入りたいけど・・・」
「じゃあどうする?」
「・・・・・」
シャワーを浴びてすっきりしたいという気持ちと、今の自分の身体を直視したくない気持ちでつくしはゆれていたが、どうしても踏ん切りがつかないでいた。
「なぁ・・・・」
「なに?」
「じゃあ俺も一緒に入ってやろうか?」
「なっ!?なにいってんのあんた!」
「いいか?おまえはオレ・・・ つまり今のおまえの身体を隠しながら入ればいいだろ?そんで身体を洗うならオレが洗ってやるよ。そしたら見なくてもすむ。」
「・・・確かに」
「しかもオレは今おまえの身体なんだから、おまえがオレを見ても自分の身体をみることになるわけだろ?」
「・・・・」
「わかったか?」
「・・・そうね、そうよね・・・」
つくしの肯定的な返事を聞き、司は笑い出しそうになった。普段のつくしからは考えられないような返事が聞けたからである。
『やっぱりまだ混乱してるんだな。一緒に入るってことは俺がつくしの身体を明るいところで見るってことになるのに』
「じゃあとりあえずおまえは上向いて、脱げるところまで自分で脱げよ」
「わかった」
なおも赤い顔のまま恐る恐る服を脱いでいくつくし。もちろん顔は上を向いたままなので、その動きは手探りな部分も多かった。
しかし下着に手をかけたところで一旦手が止まり、しばらく逡巡していたが、それも最後には意を決して目をしっかりと閉じたまま下ろした。
「じゃあ腰にタオルを巻くからな」
「うん」
司はそういうと目の前の自分の身体にタオル回しはじめた。
『なんか変な感じだな。見慣れてるとはいえ、こんな風に客観的に自分を見るってのは。つくしの視点で見てるんだよな』
「ねぇ、もういい?」
「あっ?おぉいいぞ」
「はぁ~、ありがと。じゃあ入ってくるね。」
「おぅ、すぐ行く。あったまってろよ」
風呂場に入っていく自分の後姿を見ながら司は返事をした。
『しかし、おんなじ身体でも性格が変わると全然違うもんだな。自信も無さそうだし、びくびくしてるし。財閥の副社長とは到底思えないな。
けど、表情はこっちのオレでもいいかもな。オレよりよっぽど・・・
なんていうんだ、あぁいうのは?優しい?穏やか?
・・・柔らかい?そうだなそんな感じだ。』
そんなことを考えながら司は服を脱ぎ始めた。
『けどだめだな、あんな顔。西田がなんていうか。』
穏やかな顔の自分を目にした秘書のことを考え、司は苦笑した。
パーティードレスを脱ぎ下着姿になるとまたしても妙な感覚を覚えた。
鏡に映るのは自分の身体のはずなのに、そこにあるのはつくしの体なのだ。
『相変わらず細いな』
下着をはずした今の自分の身体を見下ろしその胸に手をかけた。
触っているのはつくしの胸であるはずなのに、普段感じる興奮とは違う感じが沸いてきた。
『あぁ、つくしの感覚なのか。こんな風に感じてるんだな』
自分の感覚を冷静に見極めふとその先のことを考えていると、風呂場から声が上がった。
「ねぇ、はいんないの?あたしものぼせそうなんだけど。」
「あぁ今いく」
自分の中の考えを振り払い、司は風呂場に入っていった。
「・・・あんたなんでなんにも身に付けてないのよ」
「はぁ?オレは別に恥ずかしくねぇし。」
「あっあたしの身体でしょ~~~~!?隠しなさいよ!!」
「あほかおまえは?おれはおまえの身体は隅々まで見てるからな。今更・・・」
「ぎゃあ!そういうこといわないで!ていうか勝手に見ないで!」
「はいはい、隠せばいいのか?」
あわてて騒ぐつくしに疲れてきた司は、今回はおとなしく身体にタオルを巻きつけた。
「入るから後ろによれよ」
「えっ?あっそうか・・・」
たまに司とお風呂に入るときもつくしは恥ずかしがって司に背を向け、司の足の間で小さくなっていた。
今日も同じように浴槽に入ろうとした司のため、前のほうに座っていた。
しかし今二人の身体は大きさが逆である。
言われて気づいたつくしは恥ずかしげに身体を浴槽の後ろのほうに寄せた。
「おい、足をもう少し広げろよ。間に座れないだろ」
「えっ?・・・恥ずかしいんだけど・・」
「・・・じゃあオレは反対側にいくよ。たまには向かい合って入んのもいいかもな」
そういうと司はニヤっと笑い、つくしの向かいに座ろうとした。
「まって!わかった・・ 」
身体が変わって、みるのが自分の体だと分かっていても浴槽で向かい合うのは勘弁してほしいと思い、つくしは自分の足の間に司を座らせた。
『あぁ、こんな風に見えてるんだ・・・』
目の前にある自分の体をみて、ぼんやりとつくしは考えていた。
『こういう視点で見るといつもと全然違って見える。司に比べるとずいぶんあたしの体って小さいなぁ』
そう思うとつくしは自分の腕を目の前に掲げてみてみた。
普段の自分とは似ても似つかない、筋肉のほど良くついたきれいな腕である。
『男の人の体でもキレイって思えるんだなぁ。』
「おい?何人の腕じろじろ見てんだよ」
「!! いやあの変な感じだなと思って」
「嘘付け。見とれてたんだろ?」
「そんなことあるわけないでしょ?あんたのほうこそあたしの体にみとれて入ってくるの遅かったんじゃないの?」
自分の体なんかに司が見とれるはずは無いと思いながらも、図星を言われたつくしはあわてて言い返した。
「そうだな」
「!?」
司の予想外の返事につくしが驚いていると、更にびっくりするようなことを司は言ってのけた。
「というか、体にさわってみた。」
「!?」
「胸とか。おまえまたやせたんじゃねぇの?」
「!? 信じらんない!なに、何勝手に・・」
司の言った意味を理解すると顔を真っ赤にしてつくしは怒り始めた。
「何考えてんの?勝手に人の体触んないでよ!」
「うるせぇな、ちょっと触っただけだろうが。大体いつも触りまくってんのに、今更さわんなもないだろうが。」
「そういうことじゃないでしょ!?なんであんたはそう失礼極まりないのよ!」
怒鳴り始めたつくしは怒りで興奮したことと、お湯に使ったままだったこともあり頭がくらくらとし始めた。
後ろに感じるつくしの異変に気づいた司はすぐに振り向き声をかけた。
「おい大丈夫か?」
「へ、へい・・・ 平気。・・ちょっとのぼせたみたい。」
「とりあえず出ろよ。今のオレじゃおまえの体を運べないからな」
「・・・ん」
つくしは自分を心配そうに覗き込む自分自身の顔をみた。しかしその瞳につくしの身を案じる司を感じ、素直に言うことを聞いて風呂場を後にした。
バスローブを羽織ってから腰のタオルをはずし、フラフラする足取りでベッドルームまで進んだ。
ベッドの上で立てかけた枕に寄りかかって座っていると、すぐに司がやってきてミネラルウォーターのボトルを手渡してくれた。
「ほら、ゆっくり飲めよ」
「うん、ありがと」
「・・・・・」
「なによ?変な顔して」
「いや、自分の顔でその言葉使いはやっぱり妙な感じだなと思ってよ」
「そりゃそうよね。天下の道明寺司様が女みたいな口調でしゃべってんだもん。一生見れない姿よね。」
「まぁそうだな。他のやつに見られたら・・・ 見たやつぶっ殺してるだろうな」
「ちょっと、あたしの顔ですごんだ挙句ぶっ殺すとか物騒なこといわないでくれない。」
冷えた水をのんだことでつくしの頭もスッキリしてきた。
「なぁ、さっきの話だけど。べつにたいして触ってねぇよ。ちょっと不思議な感じがして触れてみただけだ。悪かったな。」
「いいよ。あたしもいいすぎた。そうだよね、体がかわっちゃったら変な感じするよね」
「まあな。とりあえず今日は寝ようぜ。明日、一応医者を呼ぶから。」
「うん」
普段は司の腕に抱かれるような形で寝る二人だったが、今日は体勢を逆にして眠ることにした。
体としては司の腕でつくしの体を包むほうがしっくりくるのだが、司もつくしもお互い違和感を感じていた。
最終的にはつくしの腕の中で司が寝るという珍しい形になったわけだが、二人は満足していた。
胸に抱いた自分の癖毛をなでながら司は不思議な気持ちになっていた。
『たまにはつくしの腕で寝てみるのもいいかもな。体が元に戻ったら・・・』
自分の腕の中で安心して眠りに入ろうとしているつくしの顔を見ながら、司はそんなことを考えていた。
しかしパーティーのことと邸に帰ってからのことで疲労がピークに達していた二人はすぐに襲ってきた眠気にまかせ眠りについた。
『・・・ん』
つくしは明るくなってきた部屋の様子で朝が来たことを感じ、目を覚ました。
しかしなんだか不思議な感じがし、ゆっくりと目を開けるとやはり違和感を感じた。
普段目を覚ますと目の前には司の顔や体、バスローブなどが目に入ってくるのだが、それが今日は見当たらない。
不思議な感じのまま顔を動かすと自分の胸の辺でもぞもぞと動くものを視界に捕らえた。
そこには癖の強い髪の毛フルフルと動いていた。
『あれ?司?なんで・・・』
寝起きのぼんやりした頭で考えていると、腕の中の頭が顔を上げた。
「おう、はよ」
「あ、おはよう」
いつもどうりの会話になぜかしっくり来ないつくしはその原因を考えようとした。
「あ~・・・ 良く寝た。すげぇすっきりした。今何時だ?」
司はつくしの腕の中から抜け出しながらベッドの上で起き上がった。
「どうした、妙な顔して?」
「うん、ちょっとね・・・」
体を起こした司につられ、つくしも体をおこした。
「なんだ、なんかあったのか?」
「う~ん、なんかよくわかんないんだけど・・・」
「なんだそりゃ? まぁいいや、それより元に戻ったんだな。やっぱ自分の体はすっきりするは」
ベッドから出た司は伸び上がりながら嬉しそうにそう口にした。
その様子を目で追っていたつくしは、司のセリフで目を見開いていった。
「そうよ!!!あたしたち昨日からだが・・・ 体が・・・」
違和感の正体を理解したつくしはそう叫びだしたが、全てを言う前に言葉は途切れていった。
自分の言おうとしたことに自信が持てなくなっていったのである。
「あぁ、入れ替わってたな」
「!?」
「なんだよ、一緒に風呂に入ったじゃねぇか。覚えてないのか?」
「覚えてるけど!じゃああれって本とに?なんか夢かと思った・・・」
「夢じゃないだろ。現にオレも覚えてるし。二人であんな夢を一緒に見るとも思えないしな。」
「そ、そうよね」
「だろ?けどこんなにあっさり元に戻るなら、もっと色々楽しめばよかったぜ」
「・・・あんたって。」
「なんだよ。まぁ昨日はさすがにびびったけどな。あのままだったら仕事になんねぇし。」
「確かにそうよね。でも昨日のあんた結構落ち着いてる感じしたけど、やっぱりちょっとはあせってたんだね」
「そりゃそうだろ。あのままだったらと思うとまじで怖いぜ。」
「ほんとよね。会社の人も困ったでしょうしね。」
「バーカ、オレがいってんのはそのことじゃなくて、おまえとのことだよ」
「あたしとのこと?」
「当たり前だろ?あのままだったら夜とかどうすんだよ」
「なっ!?そんなこと気にしてたの?」
「そんなこと?オレにとっちゃ一番大事な問題だぜ?なにせおまえの体だからな~。したくなってもおまえのほうが力が強いし。大体子供とか出来たら俺が生むことになるんだぜ?」
「なっ!あん、あんた!?」
司のセリフをききつくしは真っ赤になり口をあけたまま絶句した。
そんなつくしを見た司はニヤリと笑うと、ベッドの上のつくしににじり寄っていった。
「そういや昨日は風呂場でおまえの体を見たからな。なのに何にもしないで寝たんだぜ?オレの優しさをかんじたろ?」
近づいてきた司に耳元でそんなことを言われ、つくしはますます何も言えなくなっていった。
「とりあえず、体も戻ったことだし。昨日出来なかったことをしようぜ」
そういうとニヤリと笑ったまま司はつくしは押し倒された。
唖然としたままのつくしだったが、覆いかぶさってくる司の体温といつものコロンの香りに安心したように目を閉じていった。
『今日はいいか・・・。』
珍しくたいした抵抗もしないつくしに、司は驚いたがすぐに愛しい気持ちで抱きしめた。
司に抱きしめられながらつくしは
『いつか、あたしが司を抱いて寝てあげよう』と考えていた。
Fin